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ストレートプレイ

『血の婚礼』

『血の婚礼』基本情報

【東京公演】
 Bunkamuraシアターコクーン
 2022/9/15~10/2

【大阪公演】
 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
 2022/10/15~10/16

『血の婚礼』上演時間

1幕 70分/休憩 20分/2幕 45分
(合計 2時間15分)

『血の婚礼』キャスト・スタッフ

キャスト

レオナルド/木村達成
花婿/須賀健太
花嫁/早見あかり

レオナルドの妻・樵2/南沢奈央
花嫁の父・乞食/吉見一豊
女中・樵1/内田淳子
村の女・樵3/大西多摩恵
女の子/出口稚子
若者/皆藤空良
幼い女の子/澤田理央・脇山桃寧(Wキャスト)

母親・月/安蘭けい

演奏 古川麦 HAMA 巌裕美子

原作/フェデリコ・ガルーシア・ロルカ
翻訳/田尻陽一
演出/杉原邦生

『血の婚礼』とは

スペインを代表する劇作家フェデリコ・ガルシーア・ロルカの最高傑作とも言われてる。
婚礼の日に花嫁が花婿を捨てて昔の恋人(レオナルド)と駆け落ちしたことから起こる悲劇。
舞台はスペインのアンダルシア地方、実際に起きた殺人事件をヒントに1932年に執筆されている。

『血の婚礼』東京公演レポート

スペインの赤土を思わせる舞台美術、壁に囲まれ閉塞感がある。開演の案内の中、客席後方から現れる花婿と母親。

葡萄畑に行く息子にナイフを渡すのを渋る母親。ナイフが夫ともう1人の息子の命を奪い、災いの元になると思っていたからだ。亡き人の最後を思い出し荒ぶる母親に、努めて優しく接する花婿。でも彼にも母親と同じ熱い血が流れていた。

花婿は母親に結婚したいと告げる。複雑な思いを抱きながらも祝福する母親。しかし、花嫁にはかつてレオナルドという恋人がいたことを知る。夫と息子を殺したフェリックス家のレオナルド。息子の邪魔をしてはいけないと諭されるが、母親は怒りを露わにする。

レオナルドは花嫁の従姉妹と結婚し、子供が産まれている。どこか満たされぬまま妻にも冷たく当たり、夜には遠い花嫁の家まで馬を走らせる。結婚の知らせを聞き苛立ちを抑えられないレオナルド。客席にも緊張感が走り、ハッと目を逸らしてしまいそうな空気が漂う。

母親とともに花婿は花嫁の家へ挨拶に。陽気な花嫁の父に救われた気になるが、母親は依然として花嫁のことが気がかり。こんな姑さんだったらこわい。花婿は愛の言葉を囁き、花嫁は妻になることができると思うと言う。

婚礼の日。誰よりも早く1人で到着するレオナルド。祝福の言葉の裏には嫉妬があり、2人は激しくおもいをぶつけ合う。はっきり好きだとは言わない。けれど、憎しみにも似たような愛を感じる。

”黙って己の身を焦がす”

”それが俺たちに与えられた1番大きな罰かもしれない”

2人が自分のおもいを押し殺し、別々の結婚を選ぶ。レオナルドは痛いほど苦しそうだった。

”あたしには誇りがある。だから、結婚するの”

私はあなたと話すべきではない、と冷静になろうとする花嫁。この時もうレオナルドに気持ちは引きずられていたのだと思う。

各々が教会へ向かう場面。レオナルドは馬車に乗って向かうような男じゃないと言い、妻は夫と一緒に行かないような女ではないと言う。子どもがいる、もう1人生まれる、このままでいい。私もあの頃は真っ白だった、何もかも思い通りになると思っていた。妻としての強さ、誇り、2人の関係性がはっきり示される場面。子守唄を歌う儚げな妻から、レオナルドの妻でいるとう覚悟が伝わった。

陽気な音楽や女の子の楽しそうな笑い声。でも所々に観客をヒヤヒヤさせる台詞。

”逃げた”

一気に衝撃が走る。一度は花婿を止めるが、すぐさま花嫁を追わせる母親。客席を走り抜ける花婿からは激しい血を感じる。

2幕。樵(きこり)の3人がまだ客席が明るいうちから望遠鏡で逃げた2人を探している。1幕とはガラリと雰囲気が変わり、舞台奥まで赤土が盛り上がっている。印象的な月の登場。花婿は別人のように、激しく怒り気性が荒くなっている。

赤土の向こうからスローモーションで表れるレオナルドと花嫁。スペインの広大な大地を思わせる演出。必死に手を取りながら逃げる2人に観客は釘付けになった。求め合いながらも拒み合う2人。

”あんたが好き”

この言葉で2人のおもいが報われたような気がした。熱い抱擁とありったけの言葉でお互いを確かめ合っているようだった。2人は運命を悟っていたとしても、離れたくないというおもいが溢れていた。

とうとう花婿に見つかり、1本のナイフを奪い合いながら戦う2人。花嫁がナイフを奪うも、花婿に抱きしめられ手放してしまい、争いは終焉を迎える。花嫁には本当に花婿と結婚し、子どもを産むという覚悟があったのだろうと思った。

悲しみを堪えられない村の女と、気丈に振る舞おうとする母親。そこに花嫁が表れる。殺してもらうためにきた。”これだけは聞いて 私は汚れてはいない”花嫁の女としての誇りを最期までなくしていないという強さを感じた。花嫁の母がそうであったように、花嫁もまた花婿を裏切ってでも自分の思いのままに行動する血筋だったのではないか。その熱い血に、1人残された母親も共感するものがあったのではないか。

女はかしこく、強い。

あとがき

演出の杉原さんがパンフレットの中でおっしゃっていた“人と人の間に生まれる<おもい>はいつの時代もどこの国でも変わらない“ということ。役者さんの<おもい>を受け取っていたからか、ずっと台詞がなくても花嫁とレオナルドの心の声が聞こえているような気がしていた。今を生きる私たちは、こんなふうに<おもい>をぶつけ合うことはあるだろうか。
レオナルドは激しく恐い、という印象が強かった。大千穐楽、愛しているのに思いが叶わず理解もされず、一つ一つの表情がとても苦しそうだった。嫉妬深い言葉や皮肉も言いたくなる。いつの時代も愛するということは、辛いことなのかもしれないと思った。